「毎日パソコンと向き合うデスクワーク。安定はしているけれど、本当にこれが私のやりたかったことだろうか?」「雑誌を読んだり、友人の髪をアレンジしたりする時が、一番心から楽しいと感じる…」そんな思いを胸の内に秘めながら、日々の仕事に追われている社会人の方は、決して少なくないはずです。
美容の世界への憧れと、現在の安定した生活を天秤にかけ、一歩を踏み出せずにいる。その気持ち、痛いほどよくわかります。しかし、その夢を諦める必要は全くありません。
社会人としての経験を続けながら、美容師という新たなキャリアを目指すための、現実的で力強い選択肢。それが「美容専門学校の通信課程」です。ここでは、3年間にわたる学びのリアルな道のりから、卒業後のキャリアプラン、そして社会人経験者が持つ圧倒的な強みまで、綺麗事だけではない、本音の情報を徹底的に解説していきます。
1. 働きながら美容師を目指すという選択
美容師になる、と聞くと、多くの人が高校を卒業してすぐに、昼間の美容専門学校(全日制)に2年間通う姿をイメージするでしょう。
しかし、すでに社会人としてキャリアを築いている私たちにとって、一度仕事をやめ、収入をゼロにして、再び学生生活に戻るという選択は、あまりにも大きなリスクを伴います。家賃の支払い、日々の生活費、将来への備え。守るべきものがあるからこそ、夢への一歩が重くなるのです。
そんな社会人にとって、働きながら美容師の国家資格取得を目指せる「通信課程」は、まさに希望の光と言える制度です。
- 経済的な負担の軽減: 現在の仕事を続けることで、安定した収入を維持しながら学ぶことができます。これは、精神的な安定にも直結する、最も大きなメリットです。生活の心配をせずに、純粋に学びたいという意欲に集中できます。
- キャリアの継続: 万が一、美容師への道が自分には合わないと感じた場合でも、現在のキャリアを完全に断ち切っているわけではないため、リスクを最小限に抑えることができます。
- 現場での即戦力: 通信課程の多くは、美容室で働きながら学ぶ「従事者コース」が基本となります。教科書で学ぶ理論と、サロンでの実践を同時並行で進めるため、卒業時には即戦力となりうる実務経験がすでに身についている状態になります。これは、全日制の卒業生にはない、大きなアドバンテージです。
私自身、全くの異業種で働いていた頃、「もうこの年齢からでは遅いだろうか」と、何度も諦めかけました。しかし、通信課程という道があることを知り、「今の生活を壊さずに、夢に挑戦できるのなら」と、勇気を出してその扉を叩いたのです。
もちろん、それは決して楽な道ではありません。仕事の後に待っているのは、休息ではなく、教科書との格闘です。
しかし、自分の意志で選び取った道だからこそ、そこには辛さを上回る、充実感と確かな手応えがあります。「仕事があるから」を言い訳にするのではなく、「仕事があるからこそ、安心して学べる」。働きながら美容師を目指すという選択は、そんな大人のための、賢明で、力強い一歩なのです。
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2. 通信課程(3年間)の学習スケジュール
美容専門学校の通信課程は、全日制の2年間とは異なり、3年間の学習期間が定められています。これは、働きながらという制約の中で、国家試験合格に必要な知識と技術を無理なく習得するために設計されたカリキュラムです。
では、具体的にこの3年間で、どのような学習を進めていくのでしょうか。そのリアルなスケジュールを覗いてみましょう。
通信課程の学習は、大きく分けて3つの柱で構成されています。
- 自宅でのレポート学習(理論):
これが学習の中心となります。入学すると、分厚い教科書と、それに準拠したレポート課題が送られてきます。学習する科目は、国家試験で問われる内容そのものです。- 関係法規・制度: 美容師法など、働く上で遵守すべき法律。
- 衛生管理: 公衆衛生から、器具の消毒法、感染症対策まで、お客様の安全を守るための最重要科目。
- 美容保健: 皮膚科学や、毛髪科学など、人体の構造に関する知識。
- 美容の物理・化学: パーマ剤やカラー剤が、なぜ髪に作用するのかという化学的理論。
- 美容技術理論: カット、パーマ、カラーリングなどの技術に関する理論的な知識。
- 美容室での実務(実践):
多くの通信課程の学生は、美容室で見習い(アシスタント)として働きながら学びます。これを「従事者コース」と呼びます。サロンでのシャンプーやカラー塗布、接客といった日々の業務そのものが、最も重要な実践学習の場となります。 - スクーリング(面接授業):
年に数回、あるいは夏休みなどに集中して、学校に直接通学して授業を受けます。これは、自宅学習やサロンワークだけでは補えない、実技の基礎を講師から直接学ぶための貴重な機会です。
平日は本業と両立させながら、通勤時間や寝る前の「隙間時間」をいかに活用するかが鍵となります。
そして、週末はサロンでの実践学習と、まとまったレポート作成時間を確保する。このリズムを3年間、いかに継続できるか。それが、通信課程を乗り越えるための、最大の挑戦と言えるでしょう。

3. レポート提出とスクーリング(対面授業)
通信課程の3年間を支える二つの大きな柱、それが「レポート提出」と「スクーリング(対面授業)」です。この二つを計画的にこなしていくことが、卒業と国家試験合格への道を切り拓きます。それぞれのリアルな内容と、乗り越えるためのポイントを詳しく見ていきましょう。
地道な知識の定着を促す「レポート提出」
通信課程の学習の根幹をなすのが、定期的なレポート提出です。これは、大学の論文のような独創性を求めるものではなく、教科書の内容をどれだけ正確に理解し、記憶しているかを確認するためのものです。
- 内容: 穴埋め問題や、専門用語の解説を求める記述問題が中心です。例えば、「美容師法第〇条について説明しなさい」「ウェーブ形成剤の1剤と2剤の化学反応について、所定の語句を用いて述べなさい」といった形式です。基本的には、教科書を調べれば必ず答えが見つかります。
- 目的: 国家試験は、暗記が非常に重要となる科目が多くを占めます。地道にレポートをこなす作業は、単なる課題提出ではなく、国家試験合格に必要な知識を、脳に確実に定着させるための、最も効果的なトレーニングなのです。
- 大変さ: 仕事で疲れて帰ってきた後に、分厚い教科書を開き、専門用語と向き合うのは、決して楽なことではありません。「今日は疲れたから明日やろう」という誘惑との戦いが、毎日続きます。締め切り直前に慌てて一夜漬けで終わらせる、ということを繰り返すと、知識が定着せず、後で苦労することになります。
技術の土台を築く「スクーリング」
自宅学習が中心の通信課程において、唯一、仲間や講師と顔を合わせ、直接指導を受けられるのがスクーリングです。その時間は、まさに砂漠のオアシスのような、貴重で刺激的な体験となります。
- 頻度と期間: 学校によって様々ですが、年に数週間連続で行う場合や、月に数回、週末に集中して行う場合などがあります。総時間数は、3年間で300時間以上と法律で定められています。
- 内容: カット、ワインディング(パーマのロッドを巻く技術)、オールウェーブセッティング(国家試験課題)、カラーリングといった、美容師の基本となる実技を、集中的に学びます。講師が目の前で手本を見せ、一人ひとりの手つきを細かくチェックし、修正してくれます。
- リアル: スクーリングは、体力勝負です。特にワインディングやセッティングの授業では、何時間も立ちっぱなしで、同じ姿勢で細かい作業を繰り返します。普段デスクワークをしている社会人にとっては、慣れない肉体労働に、初日は筋肉痛で悲鳴を上げるかもしれません。しかし、同じ目標を持つ仲間たちと励まし合いながら、自分の技術が日に日に上達していくのを実感できる、非常に密度の濃い時間です.
レポートという「孤独なインプット」と、スクーリングという「協調的なアウトプット」。この両輪をバランスよく回し続けることが、通信課程を完走するための鍵となるのです。
4. 仕事と勉強を両立させるコツ
「仕事と勉強の両立」。言葉にするのは簡単ですが、これを3年間継続するのは、並大抵の精神力と工夫では成し遂げられません。多くの社会人学生が、この壁にぶつかり、挫折していきます。しかし、いくつかのコツを意識することで、その負担を大きく軽減し、着実にゴールへと近づくことができます。
私が多くの卒業生たちから聞いた、そして私自身も実践してきた「両立のコツ」をご紹介します。
- 徹底した時間管理と「隙間時間」の活用
「時間がない」は、最も言ってはならないNGワードです。時間は、作るものです。まずは、自分の24時間の使い方を可視化してみましょう。意外な無駄が見つかるはずです。- 朝の1時間を制する: 夜は仕事の疲れや急な残業で、計画が崩れがちです。誰にも邪魔されない朝の1時間を、最も集中力が必要なレポート作成の時間に充てることをお勧めします。
- 通勤時間を「動く書斎」に: スマートフォンでゲームをする時間を、教科書をPDF化したものを読む時間に変えるだけで、往復1時間の通勤時間は、貴重な学習時間へと変わります。
- スケジュールを細分化する: 「今週中にレポートを1本仕上げる」という漠然とした目標ではなく、「月曜は問1〜3、火曜は問4〜6」というように、タスクを細かく分解することで、達成感を得やすくなり、モチベーションを維持できます。
- 周囲の理解と協力を得る
一人で抱え込まないこと。これが、精神的な健康を保つ上で非常に重要です。- 家族やパートナーへの共有: 自分が今、どんな挑戦をしているのか、どれだけ大変なのかを、正直に伝えましょう。「週末は勉強に集中したいから、家事を少し手伝ってほしい」と具体的に頼ることで、孤独感を和らげることができます。
- 職場への配慮: スクーリング期間中には、長期の休暇を取得する必要があります。繁忙期を避けるなど、職場への感謝と配慮を忘れず、良好な関係を築いておくことが、スムーズな両立の鍵となります。
- 完璧主義を捨てる勇気
社会人経験が長い人ほど、仕事と同じように勉強でも100点満点を目指しがちです。しかし、レポートは60点で合格です。もちろん、高得点を目指すことは素晴らしいですが、完璧を求めるあまりに時間をかけすぎ、他の課題が疎かになっては本末転倒です。時には「終わらせること」を最優先する、良い意味での「手抜き」も、長距離走である通信課程を走り抜くための重要な戦略です。 - 自分へのご褒美を忘れない
レポートを一本仕上げたら、好きなケーキを食べる。スクーリングを乗り切ったら、少し贅沢なディナーに行く。小さな目標達成ごとに自分を褒め、ご褒美を与えることで、脳は喜びを感じ、次の挑戦へのエネルギーが湧いてきます。
この挑戦は、タイムマネジメント能力、交渉力、自己管理能力といった、ビジネススキルそのものを飛躍的に向上させる、最高の自己投資でもあるのです。
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5. 学費と教育訓練給付金制度
夢への挑戦を決意した時、現実的な問題として立ちはだかるのが「学費」です。
働きながら学ぶとはいえ、決して安い金額ではありません。しかし、全日制の専門学校と比較すると、通信課程の学費はかなり抑えられており、さらに、国からのサポート制度を活用することで、その負担を大きく軽減することが可能です。
通信課程の学費の目安
学校によって異なりますが、3年間の学費総額の目安は、おおよそ50万円から80万円程度です。これは、2年間で200万円以上かかることも珍しくない全日制と比較すると、3分の1から4分の1程度の金額です。
主な内訳は以下の通りです。
- 入学金: 5万円〜10万円程度
- 授業料: 年間10万円〜15万円程度 × 3年分
- 施設設備費: 年間数万円程度
- 教材費: 教科書、実習で使うウィッグ(マネキン)、シザー(ハサミ)などの道具一式を含み、10万円〜20万円程度(入学時に一括で支払うことが多い)
分割払いに対応している学校も多いため、事前にしっかりと資金計画を立てておくことが重要です。
絶対に知っておきたい「教育訓練給付金制度」
ここからが、社会人にとって非常に重要な情報です。教育訓練給付金制度とは、働く人の主体的な能力開発の取組みを支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とする、国(厚生労働省)の制度です。簡単に言えば、一定の条件を満たす社会人が、指定された講座を受講・修了した場合に、支払った学費の一部がハローワークから支給されるという、夢のような制度です。
美容専門学校の通信課程の多くは、この制度の対象講座として指定されています。
- 一般教育訓練給付金:
- 対象者: 雇用保険の加入期間が通算1年以上(初めて利用する場合)などの条件を満たす方。
- 支給額: 受講費用の20%(上限10万円)
- 多くの美容学校通信課程が、まずはこちらの対象となっています。
- 専門実践教育訓練給付金:
- 対象者: 雇用保険の加入期間が通算2年以上など、より詳細な条件を満たす方。
- 支給額: 受講費用の最大70%(年間上限56万円)が支給される、非常に手厚い制度です。近年、この専門実践の対象となる美容学校も増えてきています。
【重要】
自分がこの制度の対象となるかどうか、また、志望する学校の課程が対象講座として指定されているかどうかは、必ずご自身の住所を管轄するハローワークに、入学前に問い合わせて確認する必要があります。
この制度を知っているか知らないかで、最終的な自己負担額は数十万円単位で変わってきます。社会人だからこそ使えるこの権利を最大限に活用し、賢く、そして計画的に、夢への第一歩を踏み出しましょう。

6. 年齢の不安を乗り越えて
社会人から美容の世界を目指す時、多くの人の心に重くのしかかるのが「年齢」という壁です。
「今から始めて、本当にプロになれるのだろうか?」
「スクーリングに行ったら、自分より一回りも若い子たちばかりで、浮いてしまうのではないか?」
「アシスタントとして入るサロンで、年下の先輩に指示されることに耐えられるだろうか?」
その不安な気持ち、痛いほどよくわかります。私自身も、入学前は同じ不安で押しつぶされそうでした。しかし、結論から言えば、その心配はほとんど杞憂に終わります。そして、あなたが思っている以上に、年齢は武器にさえなるのです。
通信課程は、多様な年齢層の「駆け込み寺」
まず知っておいてほしいのは、通信課程には、あなたと同じように、様々なバックグラウンドを持つ社会人経験者が集まってくるということです。10代の高校新卒者がほとんどを占める全日制とは、生徒の構成が全く異なります。
スクーリングに行けば、20代はもちろん、30代、40代、時には50代で新しい挑戦を始める仲間に出会うことができます。元営業マン、元看護師、元公務員、子育てが一段落した主婦…。それぞれが、それぞれの人生の物語を背負い、同じ夢に向かって必死に努力しています。そこには、年齢による壁など存在しません。同じ志を持つ「同志」として、自然と深い絆が生まれるのです。
お客様は「同世代の美容師」を求めている
美容室に来るお客様は、10代や20代の若者だけではありません。むしろ、経済的に余裕があり、美への関心が高い30代以上の顧客層は、サロンにとって非常に大切なお客様です。
そして、その世代のお客様の多くは、自分と年齢が近い美容師に担当してもらいたいと、心のどこかで願っています。
- 悩みの共感: 白髪、髪質の変化、ボリュームダウンといった、年齢と共に現れるデリケートな髪の悩みを、10代の若い美容師に相談することに、ためらいを感じるお客様は少なくありません。同世代のあなたになら、安心して本音を打ち明けられます。
- ライフスタイルの理解: 「仕事で髪をまとめることが多い」「子育てで朝は時間がない」といった、大人の女性ならではのライフスタイルを深く理解し、それに合わせた再現性の高いヘアスタイルを提案できるのは、社会人経験を持つあなたならではの強みです。
あなたが重ねてきた年齢は、決してハンディキャップではありません。それは、お客様の心に寄り添うための、共感力と説得力という、何物にも代えがたい財産なのです。
参考ページ:保護者様へ|お子様の「美容専門学校に行きたい」を応援するための知識と心構え
7. 社会人経験が強みになる理由
年齢の不安を乗り越えた先に、あなたが気づくことになるであろう、もう一つの真実。それは、美容とは全く無関係だと思っていた、これまでの社会人経験のすべてが、美容師という仕事で絶大な強みになるということです。技術を学ぶスタートラインは他の人より遅いかもしれませんが、社会人として培ってきたスキルは、10代の若者には決して真似のできない、あなただけの武器となります。
具体的に、どのような経験が強みになるのでしょうか。
- 圧倒的なコミュニケーション能力とビジネスマナー
美容師は技術職であると同時に、究極の接客業です。これまでの仕事で、敬語の使い方、電話応対、メールの書き方、クレーム対応など、様々なコミュニケーションの場面を乗り越えてきた経験は、お客様との信頼関係を築く上で、計り知れないアドバンテージとなります。初めてご来店されたお客様の緊張を解きほぐす会話力や、要望を的確に引き出すヒアリング能力は、社会人経験でこそ磨かれるスキルです。 - 課題解決能力とロジカルシンキング
「納期に間に合わせるために、どう段取りを組むか」「トラブルが発生した際に、原因を分析し、どう解決策を導き出すか」。社会人として、常にこのような課題解決に取り組んできたはずです。この能力は、お客様の「髪がまとまらない」「パーマがかかりにくい」といった悩みの原因を、毛髪科学や薬剤の知識と結びつけて論理的に解明し、最適な解決策を提案する際に、そのまま活かすことができます。 - ストレス耐性と自己管理能力
理不尽な要求をする上司、厳しい納期、複雑な人間関係…。社会の荒波に揉まれてきたあなたは、精神的なタフさをすでに身につけています。アシスタント時代の厳しい修行や、長時間立ちっぱなしの肉体的な辛さも、「前の仕事に比べれば」と、ポジティブに乗り越えられる精神的な強さがあるはずです。また、給料を自己管理し、計画的に貯蓄や投資をしてきた経験は、将来、歩合制のスタイリストになったり、独立開業したりする際に、必ず役立ちます。 - 多様な業界知識という「引き出し」
あなたがこれまで働いてきた業界の知識は、お客様との会話を豊かにする最高のスパイスになります。元ITエンジニアなら、最新のテクノロジーの話題で。元金融マンなら、経済の話題で。元アパレル店員なら、ファッションのトータルコーディネートの視点から。あなたにしかできない、深みのある会話は、お客様にとって「またこの人に会いたい」と思わせる、強力な付加価値となるのです。
技術は、練習すれば必ず追いつけます。しかし、あなたが人生をかけて培ってきたこれらのヒューマンスキルは、一朝一夕には身につきません。自信を持って、その「強み」を武器に、新しい世界に飛び込んでください。
参考ページ:サロンオーナー必見!スタッフのアイブロウ資格と技術を管理する方法
8. 卒業後の就職活動と年齢の壁
3年間の厳しい学びを終え、晴れて美容師国家試験に合格。しかし、そこはゴールではなく、プロとしてのキャリアの本当のスタートラインです。通信課程を卒業した社会人経験者が、次に直面するであろう現実的な課題が「就職活動」と、そこでもやはり意識せざるを得ない「年齢の壁」です。
この問題から目を背けず、正面から向き合い、戦略的に乗り越える必要があります。
「年齢の壁」は、確かに存在する
まず、正直にお伝えしなければならないのは、サロンによっては、年齢の壁が全くないとは言えない、ということです。特に、流行の最先端を発信するような、スタッフもお客様も10代〜20代前半が中心の、いわゆる「有名サロン」「カリスマサロン」では、アシスタントとして採用するのは20代前半まで、という暗黙のルールが存在する場合があります。これは、店のブランドイメージや、既存の若いスタッフとの人間関係などを考慮した、経営的な判断であり、一概に否定できるものではありません。
しかし、全てのサロンがそうではない
重要なのは、全てのサロンがそうではない、ということです。むしろ、社会人経験者が持つ強みを積極的に評価し、歓迎してくれるサロンは、確実に存在します。就職活動で目指すべきは、自分を偽って有名サロンに入ることではなく、自分の価値を正しく評価してくれる、自分に合ったサロンを見つけ出すことです。
- ターゲットとすべきサロン像:
- 大人世代を顧客層とするサロン: 30代以上の落ち着いたお客様が多いサロンでは、同世代のあなたの存在は、まさに求めている人材そのものです。
- ライフワークバランスを重視するサロン: 社会保険完備はもちろん、育児休暇制度などが整っているサロンは、スタッフの人生に寄り添う意識が高く、多様な人材を受け入れる土壌があります。
- 将来の幹部候補を探しているサロン: あなたが持つ社会人経験やマネジメント能力を、「将来の店長候補」として高く評価してくれる経営者もいます。
就職活動を成功させる最大の鍵
そして、通信課程の学生にとって、卒業後の就職活動を成功させる最大の鍵は、実は卒業後にあるのではなく、在学中の3年間の過ごし方にあります。
通信課程の学生は、美容室で働きながら学ぶことが前提です。つまり、在学中にアシスタントとして働いているサロンが、あなたのキャリアの第一歩となるのです。
ここで、いかに真摯に仕事に取り組み、技術を学び、スタッフやお客様との信頼関係を築けるか。それが全てです。そこで実績を認められれば、卒業後、そのまま正社員としてスタイリストデビューへの道を歩むことができます。これが、最もスムーズで確実なキャリアパスです。
だからこそ、入学前に、どの美容室で働くかという選択が、極めて重要になります。自分が将来、どんな美容師になりたいか、どんなお客様を担当したいかを考え、そのビジョンに合ったサロンを、アルバイトの段階から真剣に選ぶこと。卒業後の就職活動は、入学を決めたその日から、すでに始まっているのです。

9. 同じ目標を持つ仲間との出会い
通信課程での学習は、自宅でのレポート作成や、サロンでのアシスタント業務が中心となり、基本的には「孤独な戦い」です。仕事の疲れと、勉強のプレッシャーに挟まれ、「もう辞めてしまいたい」と心が折れそうになる瞬間が、誰にでも一度や二度は訪れるでしょう。
そんな時、あなたの心を支え、再び立ち上がらせてくれるのが、スクーリングで出会う「仲間」の存在です。
年に数回しかない、貴重な対面授業の時間。そこで出会う人々は、単なるクラスメイトではありません。年齢も、前職も、住んでいる場所もバラバラ。しかし、「美容師になる」という、たった一つの熱い目標を共有しています。彼らは、あなたが今感じている辛さや、悩みを、誰よりも深く理解してくれる、かけがえのない存在なのです。
- 情報交換の場として: 「あのレポート、どうやってまとめた?」「〇〇の技術が、どうしても上手くできないんだけど、コツある?」「おすすめの練習用ウィッグは?」といった、実践的な情報交換は、独学では得られない貴重なものです。
- モチベーションの源泉として: 自分より年上の人が、家族のサポートを得ながら必死に課題に取り組む姿。自分より若い子が、仕事と勉強を両立させながら、弱音を吐かずに練習に打ち込む姿。仲間の頑張る姿は、「自分も負けていられない」という、最強のモチベーションの源泉となります。
- 一生の友人、そしてライバルとして: スクーリングの最終日には、連絡先を交換し、SNSで繋がり、その後も励まし合う関係が続きます。国家試験の前には、「一緒に合格しよう!」と誓い合い、卒業後、それぞれのサロンでデビューした後は、「今度、一緒に作品撮りをしよう」と、互いを高め合うライバルとして、そして何でも話せる親友として、その絆は続いていきます。
私自身、この道を選んで一番良かったと感じているのは、技術や資格を得たこと以上に、このスクーリングで出会った仲間たちの存在でした。彼らがいなければ、私はきっと、途中で挫折していたでしょう。彼らは、共に戦った「戦友」であり、私の人生の宝物です。
孤独な挑戦だからこそ、仲間との出会いは、あなたの想像以上に、温かく、そして力強い支えとなるはずです。
10. 美容専門学校で拓くセカンドキャリア
3年間の学びを終え、美容師国家資格という大きな武器を手にしたあなた。その先には、あなたが思っている以上に、多様で、可能性に満ちた「セカンドキャリア」が広がっています。美容師免許は、サロンでハサミを握るためだけの許可証ではありません。それは、美に関わる様々な分野への扉を開く、魔法の鍵なのです。
社会人経験という、もう一つの武器を持つあなただからこそ、そのキャリアの選択肢は、さらに広がります。
- サロンワークを極める道:
もちろん、王道はサロンでスタイリストとして活躍する道です。あなたならではのコミュニケーション能力と共感力で、お客様から絶大な信頼を得る「顧客づくりのプロ」を目指せます。将来的には、店長として店舗のマネジメントを任されたり、独立開業して自分の理想のサロンを創り上げたりすることも夢ではありません。 - 専門性を活かす道:
特定の分野を極め、スペシャリストとして活躍する道もあります。- ヘアメイクアップアーティスト: 雑誌や広告、ブライダルなど、サロンの枠を超えて活躍します。
- 福祉美容師: 高齢者施設や、障害を持つ方の自宅を訪問し、美容のサービスを提供します。社会貢献への意識が高いあなたに、大きなやりがいをもたらすでしょう。
- ヘアケアの専門家(ヘアケアマイスターなど): 毛髪科学の知識を深め、お客様に専門的なヘアケアのアドバイスを行う専門家。
- これまでのキャリアと融合させる道:
これが、社会人経験者ならではの、最もユニークなキャリアパスです。- 元ITエンジニアなら、美容業界向けの予約システムやアプリを開発する企業で、現場を知る企画者として活躍できるかもしれません。
- 元営業・マーケターなら、美容メーカーの企画・営業職として、商品の魅力を伝えるプロになれます。
- 元人事・教育担当なら、美容室チェーンの本部で、新人教育や採用を担当するインストラクターとして、その経験を最大限に活かせます。
美容師免許という「専門性」と、これまでの社会人経験という「普遍性」。この二つの強力なカードを掛け合わせることで、あなたにしか歩めない、唯一無二のキャリアを、自らの手で切り拓いていくことができるのです。美容専門学校の通信課程は、そのための、最も確実で、最も刺激的なプラットフォームなのです。
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その一歩が、未来のあなたを劇的に変える
社会人から美容専門学校へ。その道は、決して平坦な道のりではありません。仕事後の疲れた体で教科書を開き、慣れない実技に悪戦苦闘し、時には年齢の壁に思い悩む日もあるでしょう。
しかし、その困難な道のりの先には、間違いなく、昨日までの自分とは全く違う、新しいあなたが待っています。自分の手で、人を美しくし、「ありがとう」という言葉を直接受け取れる喜び。好きなことを仕事にできるという、何物にも代えがたい充実感。そして、同じ志を持つ仲間たちとの、一生涯続く絆。
あなたがこれまでの人生で培ってきた、コミュニケーション能力、問題解決能力、そして困難を乗り越える力。それらは、美容という新しい世界で、あなたが誰よりも輝くための、最高の武器となります。失うものは何もありません。むしろ、これまでの経験のすべてが、未来のあなたを支える力に変わるのです。
もし今、あなたの心の中に、美容への小さな灯火が灯っているのなら。その光を、決して消さないでください。まずは資料請求をしてみる、説明会に参加してみる。
その小さな、しかし勇気ある一歩が、あなたの人生を、もっと色鮮やかで、もっと刺激的なものへと、劇的に変えるきっかけになるはずです。